ベンチャーの売上予測 | 経営者,CFO,VCの視点
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事業計画の策定、特に「売上予測」について関係者とミーティングしていると実に様々な計画案が挙げられます。
どの売上数値とすればよいのか議論になることもしばしばです。
そこで今回は、各関係者の売上予測の見解が相違することについて、実務者の視点から思うこと、考えることをコメントしました。
ベンチャーキャピタル(VC)から資金調達をする場合があるベンチャー企業には特に役立つことでしょう。
売上予測の方法について
例えば、次の財務データがあるとします。
今年度が2年目。3年目である来年度の売上高を予想しようとしているとします。
年度 売上高 変動比率 固定費
1年目 1千万円 0.6 5百万円
2年目 2千万円 0.6 7百万円
3年目 ?
2年目の売上高成長率(100%アップ)と同率の成長率を使用すれば、「売上計画 = 2千万円 × 200% = 4千万円」。
1年目の利益が、「1千万円 × (1 - 0.6) - 500万円 = △100万円」、2年目が、「2千万円 × (1 - 0.6) - 700万円 = 100万円」。3年目の利益目標が500万円、固定費を1千万円、変動比率を0.55と予測すると、「売上計画 = (500万円 + 1千万円) ÷ (1 - 0.55) = 3333万円」。
あるいは、「勘と経験で5千万円」というのも立派な売上予測です。
たったこれだけの数字でも様々な数字を予想することができます。
立場別の売上予測と妥当性
上記を受けて次の話に進みます。
例えば、あるベンチャー企業にて、事業計画策定のうち来年度の計画を検討しているとします。
会議では経営者(CEO)、最高財務責任者(CFO)、会社に出資しているベンチャーキャピタル(VC)担当者の3名から、売上予測について次のようなコメントがありました。
- 強気の経営者「来年度は 100 で行こう」
- 慎重なCFO「事業はこれからです。ここは慎重に50にしませんか?」
- 海千山千のVC「真ん中を取って75という案もありますよ」
それでは果たして、事業計画上どの計画数字を採用するのが正解なのでしょうか?
1.経営者(CEO)の売上予測
まずは経営者の売上計画。
ベンチャー企業であれば、実績はまだほとんど出ていないため、将来の売上高を推測することは至難の業です。
また、これまでの実績がないため、会社内外の関係者とも、将来に期待している一方で不安も内在しているといった状態にあるはずです。
であるならば、強気の計画を打ちたて「ポジティブな姿勢」を経営者自らが周囲にアピールし、会社を推進していくことで不安を払拭しモチベーションを高めていく。
ベンチャー企業の経営者がリーダーシップを発揮する典型といってもいいケースだと思います。
以上から強気の経営者の売上予測は「正解」ということになります。
2.CFOの売上予測
次に、CFOのケースについて考えてみましょう。
CFOとは「最高財務責任者」であり、会社組織では、財務的な視点で計画数字を検討する役割を果たします。
ベンチャー企業であれば、どうしても投資先行になります。
そこで、CFOは「今後の資金調達」を有利に進めるよう予算計画を検討します。
事業計画は銀行やVCといった金融機関に提出され、その後、実績との比較が行われます。
その結果、実績が計画を下回っているようであれば、今後の資金調達(特に銀行からの)にも悪影響が及ぶことになります。
ということは、利益が出ており、かつ借金の返済が滞らない計画数字であれば、CFOは、より慎重な売上予測を選好する傾向になります。
以上から慎重なCFOの売上予測も「正解」。
3.VCの売上予測
最後にVCのケースです。
将来予想のデータというのは、いくつもの方法で算出したものの平均を取ることが最も危険が少ない測定の仕方であるそうです(アメリカの専門家による研究結果。ある書籍に記載がありました)。
確かに真ん中を選択しておけば、実績数字に対する、計画数字の乖離率は最も少ないことが期待できそうです(直感や経験則でもそのように思います)。
そして、VCは 1 社だけに投資しているわけではなく、複数の会社に投資しています。また、1社の投資で儲かった損したということではなく、「投資先トータルで儲かったのか?損したのか?」という考えで投資しています。
従って、売上予測も統計や確率といった視点で考えます。
言い換えれば、「できるだけリスクを減らそう」という意識が働きます。
また、経営者とCFOの真ん中を取ることで2人の「調整の役割」も果たしているということになります。
以上から、VCの売上予測も「正解」。
まとめ
「三者三様」。それぞれの立場からの売上計画という前提で考えれば、どの計画数値も正解だということです。
それでは最終的な売上予測はどうするのかといえば、議論を重ねた結果、予測の相違が縮小されれば、最終的には経営者が決定する。
どうしても相違が縮まらなければ、最大、最小、真ん中と3種類の売上高を設定するという考え方もあります。
しかし、これが例えば、「慎重な経営者、強気のCFO」で売上予測が逆転している状況だと「役割から考えた計画数字として妥当だろうか?」ということになります。
ちなみに今回のテーマは「合理的に妥当と考えられる」売上予測であることが、もちろん前提となっています。
強気や慎重といっても決して「過度に」というわけではありません。