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最近の会計・監査業界の動向について(その2)

監査業界の動向

前回は、最近の会計・監査業界のキーワード(会計・監査の国際基準への統一化、不正への対応、ビジネスの複雑化・多様化)、及びその結果、会計ルールの増加、頻繁なルール改正が行われている、ということについてコメントしました。

今回は、このような動向を受けて、監査業界ではどのような動きがあるのかについてコメントします。


監査基準の改正


会計ルールと同様、監査のルール(監査基準委員会報告)、すなわち会計士が会計監査を実施する上で守るべきルールも、国際基準へ統一すべく改正されました(この改正の一連の取り組みを「クラリティ・プロジェクト」といいます)。

クラリティ・プロジェクトは、その名の通り、実施すべき監査の手続をより明確にすることを主な目的として取り組まれました。

より具体的には、
「監査上の「要求事項」とその解釈に当たる「適用指針」に区別したこと」
「個々の報告書の目的を明確化すること」
などが挙げられます。

この結果、監査手続のルールが明確になったことにより、クライアントに対する監査の品質を一定の水準に保つことができるようになると考えられます。

なお、この監査ルール(【新起草方針に基づく改正版の各監査基準委員会報告書】の改正版)は今年2012年4月1日以降、順次適用されることになります(従ってすでに適用開始されているルールもあります)。

【補足】「新起草方針に基づく改正版の各監査基準委員会報告書」の一部は、平成24年3月期の監査又は平成23年9月中間期の中間監査より適用が開始されている。


監査のチェック体制の厳格化


オリンパスや大王製紙、AIJといった不祥事を受け、世間の会計監査に対する目がより厳しいものになりました。このままの状態だと現実の監査の水準と世間が求める監査への要求水準とのギャップ(「監査ギャップ」といいます)が大きく、乖離がある。そのため、このままの状態が続くと会社の決算書(財務諸表)に社会的信頼性を付与するという会計監査の目的を果たすことができなくなってしまうおそれがある。

そこで監査ギャップを解消するため、監査のチェック体制も厳格化する方向になり、不正対応や監査の独立性に関するルール施行・改正や会計士倫理に関する啓蒙活動が行われています。

また、監査法人のチェック体制も厳しくなる。これまでも行われてきたことですが、クライアントの決算書のチェックをする監査法人自体もまた、監査が適正に実施されているかどうかを日本公認会計士協会や金融庁にチェックされています。しかし、現状のように世間の監査に対する厳しい要求があれば、チェック自体も、もちろん厳しくなります。さらには上記のクラリティ・プロジェクトでは、実施する監査の手続を明確化したことによって、監査法人をよりチェックしやすい体制になったということができます。

【監査法人(公認会計士等)の動向


このような監査業界の動向を受けて、監査法人はどのような動きとなっているのでしょうか。

様々な監査・会計士業界に関する情報を見てみると、会計士合格者の増加や上場企業数の減少、不景気により、監査法人も業績が低迷しており、会計士も就職難等、不遇の時代が到来している、というのが大方の流れのようです。

では実際はどうなのか。3大監査法人(新日本、トーマツ、あずさ)の決算データを2010年から2012年の決算3期間分を分析してみました。すると上記情報とは異なる情報も読み取ることができます(分析結果データは掲載しませんが、監査法人のうち、有限責任監査法人の決算書はインターネット上でも閲覧することができます。興味ある方はネット検索などで調べてみて下さい)。

【2014年12月12日更新について】
トーマツの2014年6月期決算の状況が11日に公開されました(新日本とあずさは6月期決算のため既に公開済)。
そこで、2013年と2014年の決算データについても分析してみました。
下記の各項目で【追記】としてまとめています。


大手監査法人の決算データを分析した結果、分かったことは次の通りです。


1.公認会計士の雇用人数は増加している

 大手監査法人の従業員の内訳データを分析してみた結果、どの監査法人も法人全体の人数は減少傾向にありました。また、会計士試験合格者など、まだ公認会計士ではない者の人数も減少しています。これは大方の情報と一致しています。

一方で、公認会計士はどの監査法人でも人数が増加しているんです。これはあまり掲載されていない動向情報なのではと思います(私は今回のデータ分析で初めて知りました)。監査法人によっては、この3年間で4割以上も増加しています。ちなみに社員、いわゆるパートナーは微減または、微増と全体のトレンドに特徴はありませんでした。

【追記】
2013年と2014年も上記トレンドに大きな変化はなく、依然として公認会計士の雇用人数は増加傾向にあります(3大監査法人合計では、2010年から2014年までの5年間で約38%の増加。2012年比だと約13%の増加)。

一方で試験合格者などの採用については、2014年決算では前年(2013年)データとほぼ変わらない数字となりました。これまでの減少傾向のトレンドから変化があり、今後の回復に期待したいと思います。【追記ここまで】


2.クライアント数が増加している

監査業務に関するクライアント数はどの監査法人も微減の傾向にあります(数%の減少)。一方で非監査業務、いわゆるコンサルティング業務に関するクライアント数はむしろこの3年間で増加傾向にあります(監査法人によっては2割も増加している)。

IFRSを始めとするコンサルティング業務の増加による影響でしょう。IFRSが適用開始後、実務上の問題が落ち着くまではクライアント数の増加傾向は続くのではと思います。

【追記】
2013年と2014年も上記傾向に大きなトレンドの変化はありません

監査業務のクライアント数は2010年から2014年までの5年間で約3%の減少(金商法監査の減少による影響)。

一方で、非監査業務(コンサルティング業務)のクライアント数は2010年から2014年までの5年間で約26%も増加しています。
2013年と2014年は、IFRS業務よりもIPO支援業務の増加による影響が大きくなりました(定性情報より)。また、非監査業務の分野が従前に比べて広がってきていることが影響しています。【追記ここまで】


3.業務収入(売上高)は大きな変化なし

項目別にみると、どの監査法人も監査業務に関する業務収入は微減または減少(多いところで7%の減少)、コンサルティング業務の業務収入は、この3年間で微増といったところです。

一方で、1クライアント当たりの業務収入は?、というと監査業務では微減、コンサルティング業務では少し減少、といったところでしょうか(参考までに、1クライアントあたりの監査業務に係る業務収入は平均で1,800万円から2,000万円程。コンサルティング業務に係る業務収入は平均400万円から800万円程。コンサルティング業務の方が監査法人によって金額に少し差がみられました)。

【追記】
監査業務に関する業務収入は2013年まで減少していますが、2014年は2013年とほぼ変わらず、下げ止まりとなりました。

一方で、コンサルティング業務に関する業務収入は、2013年にほぼ変わらずとなりましたが、2014年には再び増加しています(2012年比で約10%の増加)。

1クライアント当たりの業務収入ですが2014年で見ると、監査業務は1,800から2,000万円程とこれまでと変わらず。

対してコンサルティング業務は500万円から700万円程となり、
監査法人間の差異が縮小していることが分かりました。【追記ここまで】


4.分析結果から分かること

こうして大手監査法人の決算データを分析してみると、公認会計士になる前段階である試験合格者等の雇用人数が減っていることは、大方の情報通りであることは確かです。この点は現状の監査・会計士業界の課題であることは間違いありません。日本公認会計士協会を始めとする各団体でも、企業内会計士を増やすよう、就職支援も行っていますが、結果としてどの程度の効果があるのか分かりません。

一方で、監査・会計士業界は厳しい状況にある、という大方の情報とは少し異なる分析結果にもなりました。大手監査法人は、この不景気の中で売上高を大きく減らさず、クライアント数は増加している。また公認会計士の雇用人数も増えている。

現状では、クライアント数が増加しているものの、対象クライアントは、ある程度、継続的な収入が見込まれる監査業務ではなく、プロジェクト的な要素の強いコンサルティング業務であること。また、監査業務と比較して編成チーム数も少なくすむこと。需給バランスから、需要側の強い時代トレンドであり、クライアントの要求するサービス水準が高くなっていること。こういった理由から、「経験の浅い試験合格者等の雇用人数を減少させ、経験ある公認会計士の雇用人数を増やしている」、ということが考えられます。

今回のケースで分かることは、実際に客観的なデータを分析してみると、既出の情報とは異なる情報が得られることもある、ということですね。現在はインターネット上などで様々な情報が飛び交う時代です。その中から正しい情報とそうでない情報を見分けることはビジネス上でも非常に重要なことだと思います。

更新日:2014年12月12日
作成日:2012年10月7日
須藤公認会計士事務所
須藤恵亮

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